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りゅうけつせんにしへいく

流血船西へ行く

山本 周五郎

「少年少女譚海」博文館、1938(昭和13)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,026 字 · 19 页

青空文庫

「うん、だがまだ予定の位置じゃない」

「それに舷灯も点けていません」

「まあ待て」

太平丸は号笛を鳴らしながら、相手の方へ近寄って行った。そして両方の舷が殆んど触合うほど接近した時、相手の船上に風雨灯の光が見え、四五人の船員が舷門の方へ走って来た。太平丸の探照灯を真向から浴びたこれらの船員たちはみんな赤髭の外人だった。

「何故、霧笛を鳴らさんのか」

船長が英語で叫んだ。

「我々はあらすかノ漁夫デス」

相手が答えた。「五時間ホド前ニ、巨キナ海坊主ニ出会ッタノデス。皆ソレデ船内ニ隠レテイマシタノデ、何ニモ知リマセンデシタ」

「他に怪しい船は見なかったか?」

相手はひそひそと何か暫く囁合っていたが、今度は別の声が答えた。

「昨日ノ朝、妙ナ船ニ会イマシタ、三本帆檣ノ二千噸バカリノ奴デス。船内ニハ誰モ居ナイ様子デ……何処も彼処モ血ダラケデシタ」

「その船は停っていたか?」

「西ノ方ヘ漂流シテイマシタ。――ソレヨリ、此附近ニ巨キナ海坊主ガ出マスカラ注意シテ下サイ。奴ハ船ヘ襲イ掛ッテ来マス」

船長は嘲るように肩を竦め、振返って出発を命じた。――伊藤次郎は霧の彼方へ消えて行く漁船を見送りながら、変にぞくぞくと背筋の寒くなるのを覚えた。