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りゅうけつせんにしへいく

流血船西へ行く

山本 周五郎

「少年少女譚海」博文館、1938(昭和13)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,026 字 · 19 页

青空文庫

――血みどろの手だ。

とさえ云った。

「全速力だ、霧などに構わずやれ」

船長は断乎として叫んだ。

伊藤次郎は直ぐ戻り、無電で浦島丸を呼び続けた。然し遂に答えは無かった。――船の位置だけでも先に聞いて置けば宜かったと思うが、もう今更どうにも仕様がない。ただ、出来るだけ早く現場へ行って、危急の友を救うことである。

天の与えと云おうか、海の荒れる季節にも関わらず風も無く、海上には緩いうねりがあるだけ、然も夜半前には全く霧も霽れたので、太平丸は湖上を行くように快走を続けることが出来た。――重苦しい夜が明けて朝が来た。四方は水平線の涯まで眼を遮る物もない。

「もうそろそろ予定の位置だが」

船長は夜明け前から船橋に立って、望遠鏡を眼から離さず監視している。

「無電はどうだ――?」

「幾ら呼んでも応答がありません」

「間に合わないかな」

船長の声は呻くようだった。

午前十時、太平丸は進路を南方に変えて逆航を始めた。P・F号の示した位置を過ぎても流血船に会わないのだ。――それに浦島丸の姿が見えないのも訝しい。

「この通り晴れているんだし、何方か一艘はみつかりそうなもんだな」