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くるいだこ
狂い凧
梅崎 春生
「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页
私は言った。
「いくらなんでも、五千円じゃムリだろう」
「ムリだろうね」
栄介は平気な声で言った。
「部屋代だけでも、そのくらいかかるだろう」
「じゃ食い代は、どう工面しているんだろう。働いているのか?」
「いや。あの齢じゃ働けないだろう。一度止宿先に訊ねて見たら、毎日外出しているとは言うんだがね」
栄介は移り行く景色を眺めながら、ぼんやりした声で言った。
「上京して来た時、幸伯父はかなり金を持っていたと思われる節がある。財産でも整理して来たんじゃないかと思う」
「城介君が勤めていた葬儀屋は、その伯父さんの知合いなんだろう」
「そうだよ。しかしあの葬儀屋の主人は、死んでしまったらしい。空襲でね」
終戦の年の暮れ、栄介は一度葬儀屋を訪ねたことがある。私鉄の駅を降り、だらだら坂の上から見渡すと、葬儀屋があった付近一面は焼けていて、ずっと彼方に雪をいただいた富士山が、小さく見える。
「ああ。ここも焼けてしまったんだな」
栄介はしばらくその風景を眺めていた。やがてゆっくりと坂を降り始めた。つめたい風が下から彼のオーバーに吹き上げて来た。
葬儀屋があったと覚しき場所の近くに、焼け材やトタンを使った小さな壕舎があった。