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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

中をのぞくとモンペ姿の中年の女が、コンロに鍋を乗せ、何かぐつぐつと煮ていた。

「ちょっとおうかがいしますが――」

栄介は戦闘帽を取った。

「この先に葬儀屋さんがありましたね。あの家族はどちらに行かれたか――」

「さあねえ」

女は栄介の方に顔を向けた。

「ここらへん、いっしょに焼けちまったんでねえ。何でも話によると、御主人は焼夷弾の直撃でなくなられたようですよ」

「直撃でねえ」

むっつりした主人の表情を、彼は思い出した。

「家族たちは?」

「さあ。実家にでも帰ったんじゃないかしら」

女は立ち上って壕舎を出て、栄介に近づき、しげしげと彼の顔に見入った。

「そうだ。あんたはたしか、昭和十年頃、あそこで働いてた人だね。面影が残ってるよ」

「いえ。違いますよ」

栄介は二、三歩後退した。女はいぶかしげに言った。

「かくさなくてもいいじゃないの。あたしゃ覚えてるよ」

あれは弟だと説明するのも面倒くさいので、彼はあわてて頭を下げ帽子をかぶった。

「どうもありがとうございました」

女の視線をひりひりと背中に感じながら、栄介はだらだら坂を急ぎ足で登った。

「そんなわけだから、幸伯父はそちらと交渉はないと思う」