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くるいだこ
狂い凧
梅崎 春生
「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页
そしてついに福次郎は折れた。
「折れたと言うのは――」
私は訊ねた。
「つまり説伏されたということかね」
「そうだよ」
栄介はまぶしそうな眼で、またグラスを口に運んだ。疲労の色が、ありありと表情に出ている。
「その間学校側でも、当り屋といろいろ交渉していたんだな。婆さんの治療費や慰藉料を充分に払う。だから我慢して呉れと言うようなことをさ。当り屋としては、実質的には食逃げの損害だけで、婆さんの怪我も皆で袋だたきにしたわけじゃないし、追っかけ方が悪くて転んだんだからねえ」
「それに客商売という弱味もあるんだろう」
「もちろんそれもある」
栄介はうなずいた。
「学校側といざこざを起しちゃ、出前が取れなくなるおそれがある。当り屋としては、充分な金さえもらえればいいんで、どちらかというと、犠牲者を出したくなかったんだ」
「うどん屋の気持が、どうして判るんだね?」
「おれは中学を卒業して、一度当り屋に行ったことがある。もちろん文句をつけにじゃなく、うどんを食べるためだ。するとおやじが出て来て、あなたさんの兄さんにも御迷惑かけましたなあ、とあいさつをして、天ぷらうどんをタダで御馳走して呉れた。