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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

ただそれだけさ」

「猿みたいな好奇心だね」

「すると看護婦か女医か知らないが、女の声が出て来た。そして症状を教えて呉れた」

矢木の言葉を黙殺して、私は続けた。

「そのあと、あなたは誰だと聞くから、僕は正直に、偶然現場に居合わせた者だと答えたんだ」

受話器の声は言った。すこしあわてた声で。病院まで御足労願えないか。病院としてその状況を知りたいし、当人側もいろんな事情で目撃者を探している。おそらく自動車のことや、災害保険などについて、証言が欲しかったのだろう。

「で、病院に行ったのか?」

「いや。行かなかった」

私は答えた。

「車のナンバーも覚えてないし、僕の印象に残っているのは、狂い凧のような標識の動きと、畠に倒れた女の姿だけだからね。齢は三十前後で、かなり美人だった」

「美人なら見舞いに行ってやればよかったのに」

「しかし僕は証人になりたくて電話をかけたんじゃない。つながりを知りたかっただけだ」

私は電熱器のスイッチをとめた。

「それから二十日ほどして、また電話をしてみた。すると彼女は退院したあとだった。その後のことは知らない。知ろうと思えば知る事が出来る。女の住所もメモして置いたから」