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くるいだこ
狂い凧
梅崎 春生
「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页
ウェイトは城介の子供のことより、幸太郎の方にかかっていた。
(兄貴のおれに、下駄を預けっ放しにして――)
やがて栄介はゆっくりと背を返した。しばらく歩いている中に、見覚えのある道に出た。かなたにさっきの赤提燈の明りが見える。栄介はためらいながら、油障子をそっと引きあけた。客はなく、さっきの酌婦がひとり、卓に顎杖をついてうつらうつらとしていた。物憂く眼を開いた。
「泊めて呉れるかね?」
栄介は顎を二階の方にしゃくりながら言った。
「ああ。いいよ」
女はのそのそと立ち上り、表戸をおろした。暗い階段を、彼は女について登った。女は破れた押入れから、ばたんばたんと布団を引きずりおろした。
栄介はまだ『女』を知らなかった。女の動作を横眼で観察しながら、ゆっくりと外套や上衣を脱いだ。女は彼の顔を見て笑った。
「どうしてそんなにこわばった顔をしてるのさあ」
「加納というのはね、やはり下関からいっしょに出発した、城介の戦友だったのだ」
栄介は私に説明した。
「戦争が終って五年ほどして、加納からハガキが来た。どこかでおれの名を見たんだろう。名前が城介に似ているが、兄弟か何かじゃないかという問い合わせだ」