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げんかくさんぼう
玄鶴山房
一、二「中央公論 第四十二年第一号」1927(昭和2)年1月1日発行<br>三~六「中央公論 第四十二年第二号」1927(昭和2)年2月1日発行
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,434 字 · 25 页
ましてお芳を囲い出した後は、――彼は家庭のいざこざの外にも彼等の知らない金の工面にいつも重荷を背負いつづけだった。しかも更に浅ましいことには年の若いお芳に惹かれていたものの、少くともこの一二年は何度内心にお芳親子を死んでしまえと思ったか知れなかった。
「浅ましい?――しかしそれも考えて見れば、格別わしだけに限ったことではない。」
彼は夜などはこう考え、彼の親戚や知人のことを一々細かに思い出したりした。彼の婿の父親は唯「憲政を擁護する為に」彼よりも腕の利かない敵を何人も社会的に殺していた。それから彼に一番親しい或年輩の骨董屋は先妻の娘に通じていた。それから或弁護士は供託金を費消していた。それから或篆刻家は、――しかし彼等の犯した罪は不思議にも彼の苦しみには何の変化も与えなかった。のみならず逆に生そのものにも暗い影を拡げるばかりだった。
「何、この苦しみも長いことはない。お目出度くなってしまいさえすれば………」
これは玄鶴にも残っていたたった一つの慰めだった。彼は心身に食いこんで来るいろいろの苦しみを紛らす為に楽しい記憶を思い起そうとした。けれども彼の一生は前にも言ったように浅ましかった。