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げんかくさんぼう

玄鶴山房

芥川 竜之介

一、二「中央公論 第四十二年第一号」1927(昭和2)年1月1日発行<br>三~六「中央公論 第四十二年第二号」1927(昭和2)年2月1日発行

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,434 字 · 25 页

青空文庫

が、ちょっと頷いたぎり、何も言わずに狸寝入りをした。甲野は彼の枕もとに婦人雑誌の新年号をひろげ、何か読み耽けっているらしかった。玄鶴はやはり蒲団の側の褌のことを考えながら、薄目に甲野を見守っていた。すると――急に可笑しさを感じた。

「甲野さん。」

甲野も玄鶴の顔を見た時はさすがにぎょっとしたらしかった。玄鶴は夜着によりかかったまま、いつかとめどなしに笑っていた。

「なんでございます?」

「いや、何でもない。何にも可笑しいことはありません。――」

玄鶴はまだ笑いながら、細い右手を振って見せたりした。

「今度は………なぜかこう可笑しゅうなってな。………今度はどうか横にして下さい。」

一時間ばかりたった後、玄鶴はいつか眠っていた。その晩は夢も恐しかった。彼は樹木の茂った中に立ち、腰の高い障子の隙から茶室めいた部屋を覗いていた。そこには又まる裸の子供が一人、こちらへ顔を向けて横になっていた。それは子供とは云うものの、老人のように皺くちゃだった。玄鶴は声を挙げようとし、寝汗だらけになって目を醒ました。…………

「離れ」には誰も来ていなかった。のみならずまだ薄暗かった。