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げんかくさんぼう

玄鶴山房

芥川 竜之介

一、二「中央公論 第四十二年第一号」1927(昭和2)年1月1日発行<br>三~六「中央公論 第四十二年第二号」1927(昭和2)年2月1日発行

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,434 字 · 25 页

青空文庫

玄鶴はお芳を囲い出さない前にも彼女には「立派なお父さん」ではなかった。しかし勿論そんなことは気の優しい彼女にはどちらでも善かった。唯彼女に気がかりだったのは父が書画骨董までもずんずん妾宅へ運ぶことだった。お鈴はお芳が女中だった時から、彼女を悪人と思ったことはなかった。いや、寧ろ人並みよりも内気な女と思っていた。が、東京の或る場末に肴屋をしているお芳の兄は何をたくらんでいるかわからなかった。実際又彼は彼女の目には妙に悪賢い男らしかった。お鈴は時々重吉をつかまえ、彼女の心配を打ち明けたりした。けれども彼は取り合わなかった。「僕からお父さんに言う訣には行かない。」――お鈴は彼にこう言われて見ると、黙ってしまうより外はなかった。

「まさかお父さんも羅両峯の画がお芳にわかるとも思っていないんでしょうが。」

重吉も時たまお鳥にはそれとなしにこんなことも話したりしていた。が、お鳥は重吉を見上げ、いつも唯苦笑してこう言うのだった。

「あれがお父さんの性分なのさ。何しろお父さんはあたしにさえ『この硯はどうだ?』などと言う人なんだからね。」

しかしそんなことも今になって見れば、誰にも莫迦莫迦しい心配だった。