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わたしのりれきしょ

私の履歴書

井上 貞治郎

――放浪の末、段ボールを思いつく

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,380 字 · 69 页

青空文庫

だがある日、すずのへちゃげた皿を廃品回収業者に売るところを、中国人の店員に見つかった。カンカンになった中国人は『すぐ出て行け』という。しかしそこはさすがに中国人で、月給を日割り勘定で一円八十銭くれたのには感心した。こんどは私も文なしで横浜に出てきたときほど心細くはなかった。なぜならそのときためておいた金が、すでに大枚七円にもなっていたからである。

『金もあるのだから、ひとつあこがれの東京へいってやれ』と思いつくと、矢もたてもたまらず、その日のうちに汽車に乗った。新橋から上野まで馬車鉄が走っていたころの東京である。私はそれには乗らず、鍛治橋から二重橋へ向かい、うやうやしく宮城を遥拝した。

上野の博物館へはいって、出てからふと気がつくと、がま口がない。中にはあのトラの子の七円がはいっているのだ。うろたえた私は体中を探ってみたが、やっぱりない。落したのか、すられたのか。私はただおろおろするばかりである。七円の中には聘珍楼でのくず代という悪銭がはいっているのだから、それは仕方がないとしても、少なくとも半分はまっとうな金だ。良銭まで悪銭が道連れにしたのだから実に惜しい。