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わたしのりれきしょ

私の履歴書

井上 貞治郎

――放浪の末、段ボールを思いつく

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,380 字 · 69 页

青空文庫

と逃げ出した。

次の日、私は元町の木村屋というパン屋に雇われた。なにしろ当時はビスケットなどめったに口にしたこともない珍菓だったので、すきをみて私はビスケットを腹ぞんぶん食った。ところが一日好きなだけ食いまくったら、つぎの日からは見るのもいやになる。

あとできいた話だが、製菓工場の工員や菓子屋の店員は、初め私と同じようにするそうだが、それからはピタリと菓子を食わなくなるという。すきを見て食ったつもりが、ひとつは店主の新参者教育法にかかっていたのかもしれない。

しかし、ここもすぐやめた。理髪店に勤めている顔なじみの山田という男にすすめられて、理髪店の見習いとして住込んだわけだ。もっとも三年の年期を入れるには親の判がいるので、国へは手紙で頼み、私はそれまで臨時の住込み店員の形であった。まず私に与えられたのは、いわば当時の扇風機のモーター代わりの役目である。分厚いどんちょうの端からたれ下がっているひもを、次の間からひいたり、ゆるめたりする。するとちょうど客の頭の上でどんちょうがバタバタとゆれ、涼しい風を送るという仕組みなのだが骨が折れるばかりでたいした効果はなかった。