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わたしのりれきしょ

私の履歴書

井上 貞治郎

――放浪の末、段ボールを思いつく

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,380 字 · 69 页

青空文庫

と教えられた。あてのない大連行きだけに、私は早速その菊本をたずねる気になった。鎮南浦から神代丸に乗って大連に着いた。大連は当時「ダルニー」と言い、ロシア風の予想外の大都会で、やたらに赤れんがの建物が目についた。放射道路の石畳の道を馬のひずめを響かせてマーチョが行き、中国人のひくヤンチョが通る。アカシヤやポプラも美しい。しかしめざす英組の菊本氏は旅順の谷口組に移ったとかでいなかった。心からあてにしていただけに落胆も大きかった。だが仕方がない。私はつてを求めて昼は炭の行商を、夜はうどんの屋台車を引っぱることにした。昼夜兼行で働かなければ、とても食っていけないからである。

炭売りは別にむずかしいこともないが、うどん屋はなかなかつらかった。夜、大連市中の日本橋のたもとに立って、りんを振っていると、汽車が走りながら鳴らすカランカランという半鐘の音がきこえてくる。はだをさす寒風が吹きつのって手や顔はむしろ痛く、私が振るりんの音までが凍りつくようであった。そんなときうどんを買ってくれた客から『悪いことはいわないから、夜の商売だけはおよしよ』ときかされたのは妙に心に残った。