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わたしのりれきしょ
私の履歴書
井上 貞治郎
――放浪の末、段ボールを思いつく
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,380 字 · 69 页
『部屋は中ぐらいでいいよ』とすべておうようである。ふところの中は相変わらずの無一文なのだが、いかにも金がたんまりあるかのように泰然と落着くことにした。しかし最初から無銭宿泊のつもりではなかった。なんとかせねばいかん、なんとかなるだろう、という気持だった。もし万策つきれば、この体ひとつ売ってでも始末をつけよう、と最後の腹は決めていた。
あくる日から私は町を歩いてここで石炭屋でも始めようか、などと考えた。宿の方ではどうやら、『あやしいやつ』と目をつけ出した様子である。いよいよこづかい銭にも困ってきたので、有名な香港の泥棒市場で、持っていた銀の懐中時計を二円で売った。
こうして戦々恐々としているある夜のこと、隣りの座敷のひそひそ話が気になり、ふすまごしに聞き耳を立てると、聞いた声と思ったのも道理、広大号に乗合わせた人相のよくない男と娘らしい。そして二、三日するうちに娘の姿がみえなくなった。
『やっぱりそうか』と私は自分のひざを打った。男は人買いなのである。娘をゆうかいして、シンガポールあたりの黒人の愛人に売り飛ばして二、三千円の金にするのだ。
一方宿からは毎日矢のような宿賃のさいそくだ。