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わたしのりれきしょ
私の履歴書
井上 貞治郎
――放浪の末、段ボールを思いつく
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,380 字 · 69 页
部屋といってもたった二畳である。つまり入口の格子をがらりとあけると、狭い一尺の土間があって、トンと上がったところが私の「お座敷」という寸法だった。
貸し主の老夫婦は唐紙一つ向こうの六畳に住んでいる。じいさんは夜になると尺八をふところに家を出ていく。飲食店の門口などに立って尺八を吹き金をもらうのだ。しかしそれだけでは生活が成り立たないので、ばあさんが大阪府知事の名が顧問として載っている「汎愛扶殖会」の帳面を持って寄付金を集めてくる。もちろんインチキなのだが、この寄付金が貧しい老夫婦の生活費の一部になっていたようだ。知事は売名、会はインチキでは寄付をする人もたまったものではあるまい。おまけにばあさんはたいへんがっちり屋で、口げんかの絶え間がない。結局言い負かされて、じいさんは尺八を持って出ていくのだが、私はそのさびしげな後姿をあわれに思ったものであった。
間もなく私は路地にある富岡紙ばこ屋の注文とりも始めた。なにしろたった二畳とはいえ、帰京以来初めての独立の安息所である。うれしかった。私は心身ともに張切って矢でも鉄砲でも持ってこい、と勢い込んだし、夜は思いっきり手足を伸ばして、のびのびと休んだ。