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わたしのりれきしょ

私の履歴書

井上 貞治郎

――放浪の末、段ボールを思いつく

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,380 字 · 69 页

青空文庫

間もなくいや気がさした私はこの店も出ることにし、一人で口入屋へ出かけていった。

そこで見つけたのは神戸栄町の熊谷回漕店である。この運送屋では幹部は通勤なので、住込んでいるのは若い店員ばかり。だから夜ともなれば、えらい人のいない気安さから向かいの店のうなどんなどをかけてトランプのバクチをやる、女遊びはする乱れ方であった。『こんなところに長くいてはいかん』、私は思案する日が多くなった。

四月二十一日は大師参りに当る久しぶりの休日だった。私は摩耶山に登り、帰り道、おりからのなぎに油を流したような神戸港をながめて考え込んだ。

『よし、ひとつお伊勢参りに出かけてやれ』

そう決めるとかえって心ははればれとしてきた。おあつらえ向きに国の母から二円の金が届いたばかりでもある。多少店には悪いと思ったが、私はそのまま神戸を飛び出していた。

汽車で奈良に向かい、若草山の下の売店でついふらふらと仕込みづえを買った。当時の青年たちを支配していた壮士気取りの気風は、やはり私にもあったわけだ。値段は大枚二円。それから桃山から京都へ出て、四日市行きの汽車に乗込んだ。汽車はそこまでしかなかったのだ。