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あきのかご

秋の駕籠

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,356 字 · 35 页

青空文庫

魚金は朝五時から夜十時まで店をあけていた。尤も客のたてこむのは食事どきと、宵からあとのことで、そのほかはひまだから、小女たちは随時にからだを休めることができた。お梅もちゃんと身じまいをするのは夕方からで、それまでは髪も撫でつけたままだし、わざと作らない身装で客の給仕をした。それは、食事だけの客には飾らないのが本当だ。と金助が主張するからであった。

二百二十日も過ぎて、にわかに秋めいてきた或る朝。ひとわたり客が来て去ったあとのことだが、顔色の冴えない若者が一人、ぬっと入って来た。彼は縞の単衣に三尺をしめ、ふところ手をしていた。

「あらいらっしゃい中さん、おひとり」お梅がにっと笑いかけた、「ばかに早いじゃないの、六さんはどうなすって」

「――一本つけてくれ」

若者は云った。娘のほうは見もしなかった。ふところ手のまま飯台へ肘をついて、むっとふくれた顔をしていた。お梅は不審そうな眼をした、しらべるような眼で、横から若者の表情をうかがって、そして云った。

「また喧嘩をしたのね、朝っぱらから酒だなんて定ってるわ」

「酒をつけてくれってんだ」

若者はそっぽを見たまま云った。