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ちくはくき

竹柏記

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1951(昭和26)年10月~1952(昭和27)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,798 字 · 91 页

青空文庫

という希望を出してきた。

岡村八束のほうは、孝之助がもう宣言してあった。杉乃に対して、両親がどう説得したか、杉乃が本当に承諾したか、どうか。孝之助はまったく知らないし、また知ろうとも思わなかった。彼はただ、杉乃の一生を幸福にしてやりたい、八束と結婚すれば不幸になる惧れが多分にある、自分のところへ来て呉れさえすればいい、自分なら、決して不幸にはしない。こう思うばかりであった。

婚約のできたすぐあとのことであるが、城中で鉄馬から呼びかけられた。

――話したいことがあるのだが。

こう云う顔いろを見て、孝之助はそれには及ばない、と首を振った。鉄馬は初めからこの縁組に反対していた。そのときも彼がなにを云うか、孝之助にはおよそわかった。それで、大丈夫だよと、微笑して云った。

――おれはあせらない性分だからね、時間をかけるほうは得意だから……。

鉄馬はそのとき、黙って眼を伏せた。

祝言の三日まえ、午後から雨になった日のことであるが、孝之助が城をさがって来ると柳の辻のところで、岡村八束に呼びとめられた。

「ちょっとそこまで、つきあって貰いたいんですがね」

傘を傾けて、こちらを覗きこんだ、その息はつよく酒の匂いがした。