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ちくはくき

竹柏記

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1951(昭和26)年10月~1952(昭和27)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,798 字 · 91 页

青空文庫

これは他の諸藩にも例のないことではないが、どこよりもはるかに寛大だった、というのが事実らしく、このほかにも、決闘の話がずいぶん残っているが、重科に処せられた、という記録は少ない。

孝之助はまえから、少しずつ身辺の始末をして置いた。役所関係の事務も、支障のないように、手順をつけた。

彼は朝の早いほうであるが、その日は四時に眼がさめた。風呂屋で水を浴び、庭へ出てまだほの暗い光りのなかで、枯れたままの、萩や芒や芙蓉などを、根から刈ったり、父の好きな、白桃の枝をおろしたりした。それから、気になっていた竹柏を、妻の居間から見えるところへ、移しなおした。

それは去年の春、こんど仲人を頼んだ、佐多梅所から貰ったものである。「竹柏」という、名も清らかであるし、その細葉の、濃緑に白く粉をふいたような、渋みのある、おちついた色も好ましかった。

――松はときに色を変えることもあるが、竹柏は枯死するまで色を変えない。

梅所はそう云って、根づくまでは此処がよい、と、場所を指定した。そしてこの夏のはじめに、梅所が来て見て、これならもう移してもよかろうと云ったものである。

――枯死するまで色を変えない。