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ちくはくき
竹柏記
山本 周五郎
「労働文化」労働文化社、1951(昭和26)年10月~1952(昭和27)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,798 字 · 91 页
しなかった。それで、あまりうまくなさそうな者を選んで、遠乗りの供を命じた、というのが真相のようであった。
小姓一人、供侍五人(みんな孝之助とは、おつかつの腕前だったが)が扈従して、まもなく城をでかけた。
露払いは遠藤又之進という小姓で、孝之助はしんがりを駆けていた。あとで聞くと、又之進は馬術では殿さまの先輩だそうであるが、遠慮のないところ下手くそであった。他の四人の侍も似たものであって、城の西中門を出るとすぐ、利秀が「ゆけ」と命じ、いっせいにだくで行進を始めたが、誰も彼もいじり腰の妙な姿勢であり、馬のほうで危ながっているような恰好であった。
西中門は城の搦手である。いい日和で、四五日まえに降って消え残った雪が、道の左右にところどころ、日をうけてぎらぎらと眩しく光っている。
「そろそろ駆けでまいろう」
野道へかかったとき、利秀が愉快そうに叫んだ。
――駆けは危のうございます。
孝之助は利秀の腰つきを見てこう云おうとした。しかし利秀はもう鞭をあげていた。そればかりではない、ちょうど向うから一疋の犬がやって来た、白と黒の斑毛で、駄犬の代表者といったふうなごくつまらない犬だったが、またひどく臆病で、疑いぶかい性分だったのだろう。