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ちくはくき

竹柏記

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1951(昭和26)年10月~1952(昭和27)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,798 字 · 91 页

青空文庫

道を曲ると、いま日が沈んだところらしく、遙かに大雲寺の森の上が、朱と金の色に染まっていた。いちめんに夕映えてはいるが、そこだけは眩しいほど強く、金粉を混えた華やかな朱色に輝いている。それは眼のさめるほど華やかであるが、しかもなにやらはかなく、うら枯れたような感じがあって、冬ちかい晩秋の、もの憂い佗しさを訴えるかのように思えた。……杉乃は眼を細めて、美しい夕空を見やりながら、良人の脇について歩いていたが、新しい岡村家の門の前へ来ると、初めてそれと直感したのだろう、急に足を停めて、良人のほうへふり向いた。

それまでの明るい顔が、鋭くひき緊って、額のあたりが白くなり、眼は咎めるような、烈しい光りを帯びていた。孝之助はそっと頷いて、頭を垂れた。

「そうなんだ」と低い声で彼は云った、「――われわれ二人が主賓だという、ぜひというので断われなかった」

「なぜそう仰しゃって下さいませんでしたの」

「云えば不承知だと思った、騙したようで悪いけれど、頼むよ」

杉乃の表情が歪んだ。引返すのかと思った。じっさい踵を返しそうにしたが、また屋敷のほうへ眼をやった。それはその年の五月から建築にかかり、八月の下旬に出来あがったものである。