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わらうあくま

笑う悪魔

野村 胡堂

「ロック」筑波書林、1948(昭和23)年12月~1949(昭和24)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,687 字 · 55 页

青空文庫

扉は厳重に中から錠されて、押せども引けども開くことではありません。

「中にはお嬢様と美保子様がいらっしゃいました。熱いお茶がほしいと仰しゃいましたので、お好きのモカを入れて、持って参りますと、扉が鎖って居て開かないばかりでなく、中でうめき声が聴えるじゃございませんか」

女中お駒の言葉を聞き流し乍ら、五六人の大の男が束になって扉に身体を叩き付けました。さしも厳重な扉も、煎餅のようにケシ飛んで、どっと雪崩込む人数、

「灯だ、灯だ」

中は真っ暗、誰かがスイッチを入れましたが、カチリと音を立てただけで天井の飾電燈も、美しい床電灯も点きません。

そのうちに、女中の一人が、堤電灯を持って飛込みました。

「あッ」

中には飛散る血、一人の若い女が、燃えるような絨毯の上に、気を失って倒れて居るではありませんか。

「美保子さんだ。お嬢様は?」

近づくお駒を掻きのけるように、後ろから出て来たのは、美保子の兄の潮田春樹でした。

「美保子、美保子、確りしろ、どうしたのだ、これは」

傷いたらしい体を抱き上げて、春樹は少し取乱して居ります。

「奈々子は、――奈々子は居ない」

絶望的な声と共に、主人の熊谷三郎兵衛が飛んで来ました。