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わらうあくま

笑う悪魔

野村 胡堂

「ロック」筑波書林、1948(昭和23)年12月~1949(昭和24)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,687 字 · 55 页

青空文庫

足の勇こと、わが早坂勇が、虎井満十と馬が合うのも、御同様貧乏で、些か呑ん平で、そして恐ろしく正義感が強くて、経済観念の全く無いという共通点の為だったかもわかりません。試みに会計部の婦人部員に訊いて見たとしたら、二人は東京ポスト社中の、前借二大横綱で、まともに算盤を取られると、向う一ヶ年位は、一銭の月給も受取れないことになって居るという、驚く可き事実を発見するでしょう。

「その千種十次郎をワクワクさせる相手というのは、何処の女優だ」

虎井満十はもう良い加減でガード下できこし召したらしい、トロンとした眼を挙げました。七つ下りの背広、襟飾が神田っ児の旋毛位に曲って、モシャモシャと無精髯の生えた顔は、思いきや哲学者のような峻烈なのに変って居ります。

「女優? 飛んでも無い、兄貴と来たら新聞記者中の清教徒だよ、――兄貴をワクワクさせる相手というのは、熊谷合名会社の若い社員で、潮田春樹の妹の美保子という麗人さ」

「ヘエ、そいつは平凡過ぎて愛嬌が無いね」

「お前は美保子さんを見たことが無いから、そんな罰の当ったことを言ってるが――」

「罰の当ったことをね」

「全くの素顔で、あんなに清潔で美しい乙女を、俺は想像したことも無いよ」