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わらうあくま
笑う悪魔
野村 胡堂
「ロック」筑波書林、1948(昭和23)年12月~1949(昭和24)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,687 字 · 55 页
恐らく付添の看護婦は、用事を弁ずるために、幾度も幾度も病室から出て居るのでしょう。
「容体はどうです?」
花房一郎と千種十次郎は、いつの間にやら寝台の側に立って居りました。
朝の光が一パイに入って、寧ろ陽気過ぎるほどの病室にはお友達から送られたらしい花が夥しく飾ってあって、その前に萎れたのを一と束、捨て兼ねる風情に置いてあるのは、多分旅行前に千種十次郎が持って来たものでしょう。
肝心の美保子は、寝室の上に打ひしがれたように無力に横わって、軽い鼾声を立てて居ります。蒼白く貧血した顔や、深く閉じた眼や、素人が見ても明かに強力な催眠薬が作用して居るらしく、二人の医者と看護婦が、いろいろ手を尽して居りますが、困ったことに容易に正気づく様子もありません。
「大丈夫でしょうか、――万一」
千種十次郎はゴクリと固唾を呑みます。今日十時に、自分が立ち会って、花房一郎に秘密を打ちあける約束をしたばかりに、恐ろしく行届く曲者にそれを嗅ぎつけられ、何んかの方法で麻睡させられたことは、最早疑う余地もありません。
「何んとも言えません、もう少し様子を見なければ」
注射器を透し乍ら、副院長は少し素気なく言い放ちます。