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きどうむかしがたり

綺堂むかし語り

岡本 綺堂

在线阅读岡本 綺堂《綺堂むかし語り(きどうむかしがたり)》,假名注音日语阅读。JLPT N2,点词查义。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 183,656 字 · 363 页

青空文庫

帰りは下り坂を面白半分に駈け降りると、あぶなく滑って転びそうになること両三度、降りてしまったら汗が流れた。

山を降りると田圃路で、田の畔には葉鶏頭の真紅なのが眼に立った。もとの路を還らずに、人家のつづく方を北にゆくと、桜ヶ岡の麓を過ぎて、いつの間にか向う岸へ廻ったとみえて、図らずも頼家の墓の前に出た。きのう来て、今日もまた偶然に来た。おのずからなる因縁浅からぬように思われて、ふたたび墓に香をささげた。

頼家の墓所は単に塔の峰の麓とのみ記憶していたが、今また聞けば、ここを指月ヶ岡と云うそうである。頼家が討たれた後に、母の尼が来たり弔って、空ゆく月を打ち仰ぎつつ「月は変らぬものを、変り果てたるは我が子の上よ。」と月を指さして泣いたので、人々も同じ涙にくれ、爾来ここを呼んで指月ヶ岡と云うことになったとか。蕭条たる寒村の秋のゆうべ、不幸なる我が子の墓前に立って、一代の女将軍が月下に泣いた姿を想いやると、これもまた画くべく歌うべき悲劇であるように思われた。かれが斯くまでに涙を呑んで経営した覇業も、源氏より北条に移って、北条もまた亡びた。これにくらべると、秀頼と相抱いて城と倶にほろびた淀君の方が、人の母としては却って幸いであったかもしれない。