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びじんたかじょう

美人鷹匠

大倉 燁子

「婦人倶楽部 一八巻九号」1937(昭和12年)7月増刊号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,870 字 · 26 页

青空文庫

菅編笠の女

なるほど達也は腺病質で弱い、夫婦とも壮健なのに不思議だ、と、主治医も常に首を傾げている、するとやっぱり――、彼女の胸には疑念が湧いた、が、それにもかかわらず、その手紙を夫へ見せようとも、また訊きただしてみようとも思わなかった。

というのは、松波博士と夫人とは非常に仲の好い夫婦だったので、小夜子はひそかに自分一人で何とか始末をつけ、夫の耳には入れまいと考えたのだった、殊に今、ある有名な事件の弁護を依頼され、日夜そのことに没頭している際でもあったので、こんな煩わしい、偽か真実かさえも分らぬような話で、夫の頭を掻き乱すに忍びなかった、たとえそれが事実であったとしても、全く一時の過失に違いない、それなればこそ、花の申出にも拒絶しているではないか、一時の過失位は笑って許すのがほんとに夫を愛する妻と云えよう。

「どうせ、過失のない人間なんてありやしないんだから――」と、小夜子は自分に云って聞かせるように言って、手紙を箪笥の中へ納い、ピンと錠をかけてしまった。

菅編笠の女

一週間後に、小夜子はまた同じ手紙を貰った、今度は刑務所からではなかった。

返事をくれないのなら若様を誘拐ってやるの、よい家庭の裏面として松波男爵家の秘密を世間に曝露してやるの、と、脅迫めいた言葉が連ねてあった。