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わかとのじょなんき

若殿女難記

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館 、1948(昭和23)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,611 字 · 45 页

青空文庫

若さまは困ったようにちらと松田久弥の顔を見たが、一代の智恵を絞ったのだろう、万里がなにも云わないうちにこう声をかけられた。

「堅固でめでたいなじい、みな達者か」

「身に余るお言葉、忝けのう存じまする」老人は平伏しながら泣いた。「お健やかに御成人あそばされめでたく――御世継ぎとして御帰館あらせられ、わたくしども一同、祝着に存じ奉りまする」

「まだ祝言を聞くには早い、まだこれから踊ったり歌ったりしなければならぬようだ」若さまは調子に乗ったものか、とんでもないことを云いだした。

「江戸にはない踊りぶり歌いぶり、近ぢかにとっくり見せてやる、また会おうぞじい」

いやどうも、用人や紋太夫らのびっくりしたこと、だが終りの一句がぴたりと篏っていたため、万里にそれ以上なにも云わせなかったのは偶然の収穫であろう。次で筆頭年寄の増井琴太夫が進み出た、これにはえへんと咳払いがついている。以下四十人のうち咳無しの者が十七人、即ち過半数が奸臣一味という結果が顕われたのである。――引見の式も成功であった、家臣たちが退出したあと、松田久弥、増井琴太夫、角田、瀬沼、五十塚、額田ら十八名は居残って、殆んど暮れ方まで謀議を凝らしていた。