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おちばいき
落ち梅記
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页
こう云って静かに眼をつむった。
明くる朝は気分もよいと云い、顔色も赤みがとれて平生と違わなくなった。金之助も少しおちついた気持で、休暇の願いを自分で届けにゆき、城内の作業役所にいる林久一郎を訪ねた。半三郎のことで相談したいから和泉といっしょに集まって呉れないか、そう云いに寄ったのであるが、久一郎は頭を振った。
「いやあれはだめだ、よしたほうがいい、和泉もおれもひどく手を焼かされたんだ、なにをしたってむだだよ」
「それはそうかもしれないが、しかし」
「いやおれは御免こうむる、和泉だってそんなこと聞きはしないぜ」
公郷のことなどはやめよう、それより久しぶりで話さないかと、まるっきり相手にならないのである。どんな迷惑をかけられたかは云わなかったが、なまなかのことでないのは口ぶりで察しがついた。金之助は重くふさがれた気持で、やや暫く話した後そこを出た。――いちど家へ帰り、午餉を早めに済ませて、金之助は法顕寺へでかけていった。
眩しいようによく晴れた日で、少し歩くと汗ばむくらいだった。古い大きな百日紅がたくさんあるので名高い境内を、庫裡のほうへゆくと、客殿の縁側に由利江が立っていて、額にかざしている小扇でこちらへ合図をした。