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おちばいき
落ち梅記
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页
金之助は虚を衝かれた、正直のところそれは由利江の冗談で、次の瞬間に笑いだすのではないかとさえ疑った。
「御存じでございましょうか、わたくし公郷さまのお妹の千秋さまとは古いお友達で、ずいぶん親しくおつきあいしておりますの」
由利江は眼を伏せたままこう続けた。燃えてくる感情をけんめいに抑え、どうしたら自分の気持を正しく伝えられるか、どう云ったら本当にわかって貰えるかと、足踏みをするような口ぶりである。ゆたかにふくよかな頬も蒼ざめ、膝の上で手指が見えるほど顫えていた。
「この冬の頃から、干秋さまがしきりに兄の嫁に来て呉れと仰しゃいますの、あなたはもちろん御承知でございましょう、公郷さまはさきごろからたいへんお身持が悪く、世間の評判にもなりだしたそうで、御両親はじめ御親族のあいだでも困じはてていらっしゃる、このままでは家名を汚し身を滅ぼすのは見えるようだ、どうにかして身持を直す法はないか、――みなさまで幾たびもそういう御相談があったそうでございます、そうしているうちに半三郎さまのお口から、千秋さまにわたくしの名が出たと申しますの、わたくしあの方とはお話をしたこともございませんけれど、あちらでは知っていて下すったのでしょうか、由利江を妻に迎えることができれば、……わたくし自分の口からこんなふうに申上げて、おさげすみを