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おちばいき

落ち梅記

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页

青空文庫

「わたくしたびたびお断わり申しました、けれど千秋さまはそれがたった一つ兄を救うみちだからと仰しゃって、母にまで泣いてお頼みなさいましたの」由利江はしずかにこう続けた、「――そしてわたくしも、とうとう断われなくなってしまいました、自分の描いていた夢、ながいあいだ心に秘め、温ためていた夢、それが無になってしまうのは悲しゅうございますけれど、もしそれで公郷さまのお身持が直るのでしたら、それもひとつの生き甲斐だと存じますの、……そう思っては間違いでございましょうか」

「あなたがそう決心なすったのなら」と、金之助は少し間をおいて云った、「――それで決して間違いはないと思います、ただこういうことだけ伺いたいのですが、……あなたの気持には誤りがないとして、結婚というものがそういうことで成立ってゆくかどうか」

「――と、仰しゃいますと」

「相手の行状を直すとか、相手を更生させるという意味がひとつの愛情には違いない、しかし一生を共にする夫婦の愛というものは、それとは別のものではないか、その愛なしに結婚という一生の結びつきが成立つかどうか、その点をお考えになったでしょうか」