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おちばいき

落ち梅記

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页

青空文庫

「いの二」「こ」「し」などという符号が印してあった。

命ぜられた「ひ」というのはずいぶん嵩のある包だった。父の枕元へいって示すと、それだというように頷いて、夜具の上にまた指でこう書いた、「誰にもみつからぬ処へしまって置け」それからさらに「厳秘にせよ」ということを重ねて書いた。――金之助はそれを自分の居間へ持ってゆき、支度部屋の納戸をあけて、少年時代の手習い草紙や筆写綴りなどの詰っている、長持のいちばん下へとそれを入れた。……そのとき又しても重くるしい不安におそわれた、沼原の宿から始まった老臣たちの隠密な訪れ、医師の制止を押し切って密談したこと、それはどうやらその書類包に関係があるようだ。

――慥かにこの包には非常な意味がある、しかしいったいどんな意味だろう。

説明を求めても現在の父には不可能であろう、自分としてはどんな事態がやって来ようと狼狽しない覚悟をしているほかはない、こう思って金之助は病床に付ききりの日を送った。

十月下旬に半三郎と由利江の婚礼がおこなわれた。半三郎はこの期間ずっと姿をみせなかった。あのとき「こんどこそ立直る」と云ったことが慥かだったのか、それとも望んでいた婚約がととのって、それが好き転機となったものか、とにかく姿をみせないのは行状が変ったせいであろう。