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おちばいき
落ち梅記
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页
「それは政治に関係したことなのか」
平馬は黙っていた。その姿勢には微かながら敵意のようなものさえ感じられた。
帰るとき玄関へ送って出たようすでは、こんど訪ねて来ても会わないという態度が明らさまであった。――金之助はくにもと育ちであるし、出府してから半年にもならず、江戸邸の事情に疎いのはいうまでもなかった。そのうえ「側用人」という職は常にもっとも近く藩主に仕えるため、対人関係が微妙であって、周囲との昵懇なつきあいは遠慮しなければならない。しぜん家中の細かい内情には不案内だったし、またその必要もなかったのである。……平馬のとつぜんな忠告が、なにかしらいま家中に起ころうとしていることを示すのは明らかだ、側用人も次席家老の席をも辞せという、さもなければ絶交だと云わんばかりであった。
――慥かに政治をめぐってなにか動きだそうとしている、そしてその動きには自分も無関係ではないらしい。
それはもう疑う余地がないだろう。病床の父を老臣たちが訪れたのも、父が隠せと命じたあの書類包も、出府したはじめに藩主の云った言葉も、――それから若殿康継の冷やかなあしらいにも、その動きの糸が繋がっているかもしれない。