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おちばいき

落ち梅記

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页

青空文庫

――半三郎は血ばしった眼で、噛みつくようにこっちを見た、「――それを由利江が持っている、宝物かなんぞのように、肌身はなさず大切にしている、……あれはきさまの家にいたことがある、しげしげと出入りもしていた、公郷へ来てからのようすでも、二人のあいだになにがあったかは一目瞭然だ、躯ばかりのぬけがらを貰ってありがた涙をこぼすほど、おれは馬鹿でもめくらでもないんだ」

その言葉をしまいまで聞かず、金之助は席を蹴って相手にとびかかった。

「よし来い、きさまなんぞ」

半三郎もすばやく立った。躯と躯とが激しくうち当り、組んで倒れた。酔いに煽られた狂暴な力で、半三郎は金之助を押伏せ、両手で相手の喉を絞めた。だがそれより早く、金之助は下から彼の顎を突上げ、忽ち逆に組敷いたと思うと、拳をあげて続けざまに高頬を殴りつけた。七八つちから任せに殴ると、半三郎は肩で息をしながらぐったりとなり、反抗を止めて手足を投げだした。

「おまえそんなに卑しい人間になったのか、半三郎」金之助は馬乗りになったまま、低くころした声で云った、「――おまえにはそんな卑しいことしか考えられないのか、もしそうなら相済まぬぞ、……よく聞け、正直に云えばおれはあのひとが欲しかった。