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おちばいき

落ち梅記

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页

青空文庫

半三郎はぐらぐらと頭を揺りつづけていた。蒼白くひきつっている頬、歯の見える口、そして双の眼からはしきりに涙があふれ出た。――金之助は立って衣紋を直し、刀を取上げて振返った。半三郎は毀れた木偶のように、身を投げだしたまま動くけはいもなかった。

その月の下旬に、金之助は江戸の中屋敷で康継と会い、持って来た包の書類を差出した。康継はひじょうな悦びで、これでもう事は成ったと云った。そして、国許における裁決には自分も出るが、裁きの責任者として誰かひとり選びたい、自分の側近からでなく、この問題に関係のない人間を選んで公平な裁きをさせたいが、誰か思い当る者はないかと問われた。

金之助はそのとき即座に半三郎の名を挙げた。

「彼なれば必ずお役に立つと存じます」

「――半三郎」康継はなにか思いだそうとするように眼を細めた、「――それはそのほうといっしょにおれの相手に出た、あの半三郎か」

「私には他に思い当る者はございません、繰り返して申上げますが彼はお役に立ちます、誰よりもみごとにやり遂げると存じます」

康継は思いをひそめるように、やや長く沈黙した後、つくづくと金之助を見おろしながら云った。