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ふとん

蒲団

田山 花袋

「新小説」春陽堂書店、1909(明治40)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,870 字 · 90 页

青空文庫

芳子にはこの時雄の教訓が何より意味があるように聞えて、渇仰の念が愈加わった。基督教の教訓より自由でそして権威があるように考えられた。

芳子は女学生としては身装が派手過ぎた。黄金の指環をはめて、流行を趁った美しい帯をしめて、すっきりとした立姿は、路傍の人目を惹くに十分であった。美しい顔と云うよりは表情のある顔、非常に美しい時もあれば何だか醜い時もあった。眼に光りがあってそれが非常によく働いた。四五年前までの女は感情を顕わすのに極めて単純で、怒った容とか笑った容とか、三種、四種位しかその感情を表わすことが出来なかったが、今では情を巧に顔に表わす女が多くなった。芳子もその一人であると時雄は常に思った。

芳子と時雄との関係は単に師弟の間柄としては余りに親密であった。この二人の様子を観察したある第三者の女の一人が妻に向って、「芳子さんが来てから時雄さんの様子はまるで変りましたよ。二人で話しているところを見ると、魂は二人ともあくがれ渡っているようで、それは本当に油断がなりませんよ」と言った。他から見れば、無論そう見えたに相違なかった。けれど二人は果してそう親密であったか、どうか。