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ふとん

蒲団

田山 花袋

「新小説」春陽堂書店、1909(明治40)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,870 字 · 90 页

青空文庫

それに小僧が無精で掃除をせぬので、卓の上には白い埃がざらざらと心地悪い。渠は椅子に腰を掛けて、煙草を一服吸って、立上って、厚い統計書と地図と案内記と地理書とを本箱から出して、さて静かに昨日の続きの筆を執り始めた。けれど二三日来、頭脳がむしゃくしゃしているので、筆が容易に進まない。一行書いては筆を留めてその事を思う。また一行書く、また留める、又書いてはまた留めるという風。そしてその間に頭脳に浮んで来る考は総て断片的で、猛烈で、急激で、絶望的の分子が多い。ふとどういう聯想か、ハウプトマンの「寂しき人々」を思い出した。こうならぬ前に、この戯曲をかの女の日課として教えて遣ろうかと思ったことがあった。ヨハンネス・フォケラートの心事と悲哀とを教えて遣りたかった。この戯曲を渠が読んだのは今から三年以前、まだかの女のこの世にあることをも夢にも知らなかった頃であったが、その頃から渠は淋しい人であった。敢てヨハンネスにその身を比そうとは為なかったが、アンナのような女がもしあったなら、そういう悲劇に陥るのは当然だとしみじみ同情した。今はそのヨハンネスにさえなれぬ身だと思って長嘆した。