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ふとん

蒲団

田山 花袋

「新小説」春陽堂書店、1909(明治40)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,870 字 · 90 页

青空文庫

机の上にはモウパッサンの「死よりも強し」が開かれてあった。

二三日経って後、時雄は例刻に社から帰って火鉢の前に坐ると、細君が小声で、

「今日来てよ」

「誰が」

「二階の……そら芳子さんの好い人」

細君は笑った。

「そうか……」

「今日一時頃、御免なさいと玄関に来た人があるですから、私が出て見ると、顔の丸い、絣の羽織を着た、白縞の袴を穿いた書生さんが居るじゃありませんか。また、原稿でも持って来た書生さんかと思ったら、横山さんは此方においでですかと言うじゃありませんか。はて、不思議だと思ったけれど、名を聞きますと、田中……。はア、それでその人だナと思ったんですよ。厭な人ねえ、あんな人を、あんな書生さんを恋人にしないたッて、いくらも好いのがあるでしょうに。芳子さんは余程物好きね。あれじゃとても望みはありませんよ」

「それでどうした?」

「芳子さんは嬉しいんでしょうけど、何だか極りが悪そうでしたよ。私がお茶を持って行って上げると、芳子さんは机の前に坐っている。その前にその人が居て、今まで何か話していたのを急に止して黙ってしまった。私は変だからすぐ下りて来たですがね、……何だか変ね、……今の若い人はよくああいうことが出来てね、私のその頃には男に見られるのすら恥かしくって恥かしくって為方がなかったものですのに……」