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むし

虫

江戸川 乱歩

一~四「改造 第十一卷第六號 六月號」改造社、1929(昭和4)年6月1日<br>五~十二「改造 第十一卷第七號 七月號」改造社、1929(昭和4)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,053 字 · 86 页

青空文庫

彼は急いで、客待ちのタキシーを傭って、池内の車をつける様に命じた。

うしろから見ていると、池内の自動車は、尾行されているとも知らず、さもお人よしに、彼の車の頭光の圏内を、グラグラとゆれていたが、暫く走る内に、こちらから見えている背後のシェードが、スルスルと卸された。いつかの晩と同じである。だが、卸した人の心持は恐らく彼の場合とは、全く違っているであろうと邪推すると、彼はたまらなくいらいらした。

池内の車が止ったのは、築地河岸のある旅館の門前であったが、門内に広い植込みなどのある、閑静な上品な構えで、彼等の媾曳の場所としては、誠に格好の家であった。彼等が、そういう場所として、世間に知られた家を、態と避けた心遣いが、一層小憎らしく思われた。

彼は二人が旅館へ這入ってしまうのを見届けると、車を降りて、意味もなく、そこの門前を行ったり来たりした。恋しさ、ねたましさ、腹立たしさに、物狂わしきまで興奮して、どうしても、このまま二人を残して帰る気がしなかった。

一時間程も、その門前をうろつき廻ったあとで、彼は何を思ったのか、突然門内へ這入って行った。そして、「お馴染でなければ」