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むし

虫

江戸川 乱歩

一~四「改造 第十一卷第六號 六月號」改造社、1929(昭和4)年6月1日<br>五~十二「改造 第十一卷第七號 七月號」改造社、1929(昭和4)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,053 字 · 86 页

青空文庫

彼は隙見の度毎に、一つずつ、彼女の肉体の新しい魅力を発見した。襖の隙から、薄暗い室内の、蚊帳の中で(もう其頃は夏が来ていたから)海底の人魚の様に、ほの白く蠢く、芙蓉の絽の長襦袢姿を眺めたことも、一度や二度ではなかった。

その様な折には、彼女の姿は、母親みたいに懐しく、なよなよと夢の様で、寧ろ幽幻にさえ感じられた。

だが、まるで違った場面もあった。そこでは、彼女は物狂わしき妖女となった。振りさばいた髪の毛は、無数の蛇ともつれ合って○○○かなぐり捨てた全身が、まぶしいばかり桃色に輝き、○○○○○○○、空ざまにゆらめき震えた。柾木は、その兇暴なる光景に耐えかねて、ワナワナと震い出した程である。

ある晩のこと、彼はこっそりと、二人の隣の部屋に泊り込んで、彼等が湯殿へ行った間に、境の砂壁の腰貼りの隅に、火箸で小さな穴をあけた。これが病みつきとなって、それ以来、彼は出来る限り、二人の隣室へ泊り込むことを目論んだ。そして、どの家の壁にも、一つずつ、小さな穴をあけて行った。彼はこの狐の様に卑劣な行為を続けながら、ふと「俺はここまで堕落したのか」と、慄然とすることがあった。