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むし
虫
江戸川 乱歩
一~四「改造 第十一卷第六號 六月號」改造社、1929(昭和4)年6月1日<br>五~十二「改造 第十一卷第七號 七月號」改造社、1929(昭和4)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,053 字 · 86 页
そして、目全体の感じが、ガラス玉みたいに、滑っこくて、固くて、しかもひからびた様に、潤いがなくなっていた。そっと手を取って眺めると、拇指の先が、片輪みたいに、掌の方へ曲り込んだまま、動かなかった。○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○。
彼は胸から背中の方へ目を移して行った。無理な寝方をしていたので、肩の肉が皺になって、そこの部分の毛穴が、異様に大きく開いていたが、それを直してやる為に、一寸身体を持上げた拍子に、背中の畳に接していた部分が、ヒョイと彼の目に映った。それを見ると、彼はギョクンとして思わず手を離した。そこには、かの「死体の紋章」と云われている、青みがかった鉛色の小斑点が、已に現われていたのだった。
これらの現象は凡て正体の曖昧な、極微有機物の作用であって、死後強直というえたいの知れぬ現象すらも、腐敗の前兆をなす所の、一種の糜爛であった。柾木は嘗つて、何かの書物で、この極微有機物には、空気にて棲息するもの、空気なくとも棲息するもの、及両棲的なるものの三類があることを読んだ。それが一体何物であるか、何処からやって来るかは、非常に曖昧であったけれど、兎に角、目に見えぬ黴菌の如きものが、恐ろしい速度で、秒一秒と死体を蝕みつつあることは確かだった。