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むし

虫

江戸川 乱歩

一~四「改造 第十一卷第六號 六月號」改造社、1929(昭和4)年6月1日<br>五~十二「改造 第十一卷第七號 七月號」改造社、1929(昭和4)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,053 字 · 86 页

青空文庫

彼は追い立てられる様な気持で、昨日失敗した防腐法を、もう一度繰返すことを考えて見たが、考えるまでもなく駄目なことは分り切っていた。防腐液の注射は無論彼の力に及ばぬし、氷や鹽を用いる方法も、そのかさばった材料を運び入れる困難があった外に、何となく彼と恋人とを隔離する感じが、いやであった。そして、仮令どんな方法をとって見た所で、幾分分解作用をおくらすことは出来ても、結局それを完全に防ぎ得るものでないことが、彼にもよく分っていた。彼の慌だしい頭の中に巨大な真空のガラス瓶だとか、死体の花氷だとかの、荒唐無稽な幻影が浮んでは消えて行った。製氷会社の薄暗い冷蔵室の中で、技師に嘲笑されている彼自身の姿さえ、空想された。

だがあきらめる気にはなれなんだ。(以下三行削除)

「アア、そうだ。死骸にお化粧をしてやろう。せめて、うわべだけでも塗りつぶして、恐ろしい蟲共の拡がって行くのを見えない様にしよう」

考えあぐんだ彼は、遂にそんなことを思立った。あきらめの悪い姑息な方法には相違なかったけれど、彼の不思議な恋を一分でも一秒でも長く楽しむ為には、この様な一時のがれをでも試みる外はなかった。