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ひょうしゃくかんにんき

評釈勘忍記

山本 周五郎

「新読物」公友社、1947(昭和22)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,889 字 · 36 页

青空文庫

と横柄な口を利いた。恐ろしく反り返っているのでこっちからは顎だけしか見えないくらいだった、千蔵は頭がじいんと痺れた、臍のあたりがむず痒くなり、それが胃の腑のところへ移行して来た、従来の経験だとそれは準備完了の徴候であるがそのとき、移行して来たものがなにかにこつんと突当ったのである、胃の噴門部あたりで得態の知れないものにぶっつかり、そこで不決断に停止した、詰りその得態の知れないものが勘忍袋だった訳で、そう気づくなり千蔵は満身の力をこめてその緒を引緊めた、ぎゅっ、ぎゅっと力いっぱい引緊めた。富田弥六はじりじりと後ろへ退った、こちらが返辞をしないでいつまでも黙って立っているので少し不安になったらしい、千蔵はようやく袋の口を緊め終ったので、しずかに「この十二日から出仕する」と答えた。弥六は「この」という発音と同時に右の腕で頬を掩い、左手でなにかを防ぐような恰好をしながら、蝗のようにすばやく玄関の外へ跳び出した。この動作の敏速的確さは彼もまた或る種の人物であることを証明するものであろう、然し敏速なる退避行動にも拘らず、拳骨も平手打もとんで来ないのを知ると、彼は(既に門のところにいたが)吃驚したように四辺を見まわし、千蔵が依然として玄関に立ったままで、些かも暴力的所作に出る容子のないのを慥かめると、もういちどこっち