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ひょうしゃくかんにんき

評釈勘忍記

山本 周五郎

「新読物」公友社、1947(昭和22)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,889 字 · 36 页

青空文庫

というような奇声が聞えた。乙のときも予期以上に仕掛けがうまく利いて、起上るとたんにざっぷりと水をかぶったが、逆上したのだろういきなり刀を抜いて、無礼者と叫びながら転げている半※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)を斬ったのには驚いた。「こいつは碌な者にはならん」とその頃から目の敵にされていたので、ぎゅっという目に遭うだろうくらいは暗算して来たのである。ところが小言は割かた軽く済んで、五年ばかり見ないうちにすっかり肥って酒光りの出た赭ら顔も、どうやら隠居らしい温厚なおちつきが表われている。千蔵つい嬉しくなって、世間の親爺という親爺をみんな隠居させたらさぞ安楽だろうと思ったくらいである。

「然しどうしておまえはこう喧嘩ばかりするんだ」紋太夫の調子はぐっと親愛の調子を帯びてきた、「若いうちは有りがちだといっても、おまえのは願を掛けたようじゃないか、就中この仁宅多二郎を殴ったという訳がわからん、仁宅はこっちにいるじぶんおれの役所で使っていたが、ごく温厚で篤実な人間だった、決して喧嘩や口論をするような性質ではない、どういう理屈であれを殴ったんだ」