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ひょうしゃくかんにんき
評釈勘忍記
山本 周五郎
「新読物」公友社、1947(昭和22)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,889 字 · 36 页
そして唖然としている家扶に背を向け、力足を踏んで宇野邸を出ていった。霧の流れる城下町を北へぬける、大馬場を廻って小川の畔をゆくこと三町、鉄砲的場を取巻いて深い杉の森がひろがっていた。千蔵はまっすぐ森の際までいった、見まわしたが、誰もいない、舌打をして、転げている朽木へ腰を掛けた、「――誰か一人ぐらいは来るだろう」こんなことを呟いた。
小鳥の囀りが高くなり、霧がうすれた。千蔵は朽木から立ち、伸上って道の彼方を見やった。もうとっくに刻限である、然し誰一人として現われる容子がない、「ちょ――」彼は舌打をし、右手で拳骨を握ってぶんぶん振廻した。するとうしろで「もうお帰りあそばせ」という声がした。これには千蔵も吃驚して、あっと叫んで振返った。そこに、――宇野のかな女が立っていた。
「あなたは、あなたは」
「ええ来ておりました、庄司さまよりほんのひと足早く、――」
「私より早くですって、だってどうしてそれが」
「昨日のお噂は城下じゅう知らない者はございませんですわ、そして伺ったわたしが、ここへまいらないでいられましたろうか、――」
千蔵はじっとかな女の眼を瞶めた、そしていちど全身を見上げ見下ろしてから、改めてまた眼を瞶めた。