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ひょうしゃくかんにんき

評釈勘忍記

山本 周五郎

「新読物」公友社、1947(昭和22)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,889 字 · 36 页

青空文庫

「どうもおかしい」紋太夫は腕組みをして首を捻った、「おまえの云うことを聞いていると駕籠舁きか魚屋とでも話してるようだ、江戸は言葉がぞんざいなことは知っているがおまえのは桁外れじゃないか、ふざけた糸瓜だ、晩飯を食わせる、蒟蒻玉頑てき頓痴気、とうてい武士の口にすべきたぐいの語彙ではない、いかんぞ千蔵」

酒がはいっていなかったらこの辺で雷が落ちるのである、然し老人の生理的条件は最上であって、寧ろ甥の性格のなかに自分と同位元素のあることを認め、これを撓め直すこと己れの為すが如くせよとさえ思ったくらいである。

「もっと此方へ寄れ、――」紋太夫は声を柔らげて云った、「おまえの短気は世間を知らず苦労を知らないところから起こる、人間はそれぞれ感情もあり意地もあって、時には臍を曲げたり毒口をきいたりしたくもなるものだ、いいか例えばここでおまえが殴られたとする」

「そんなことは断じてありません」

「これは譬えだ、例えばおまえが殴られたとして、ああよく殴って呉れたいい気持だ、――そう思うか」

「誰がそんなことを思うもんですか、もしそんな奴がいたら」

「まあ聞くんだ、いいか、おまえが殴られていい気持がしないとすれば、おまえに殴られる相手だっていい気持はしない、そうだろう」