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ろんごものがたり
論語物語
下村 湖人
「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页
――儀は魯の国境に接した衞の一都邑である。
「それで、もうどのくらいお勤めです。」
冉有は、関守を孔子に会わせたくなかった。孔子の相手は諸侯か、さもなくば大夫である。一々小役人などに面談さしていては、きりがない。それに、何といっても、孔子は今は落魄の身である。衞の国にはいったしょっぱなから、よぼよぼの関所役人などを相手にしたとあっては、いよいよ孔子の威厳にかかわる。われわれ門人としても、あまりいい気持のものではない。この際は、世間に軽く見られるのが、何よりもいけないことだ。なるだけどっしりと構えるに限る。そう考えて、彼は話を他の方にそらそうと努めた。
「もう、かれこれ、四十年ほどにもなりましょうかな。」
と、関守は、ぐっと腰をのばして、いかにも得意そうに答えた。
「四十年!」
冉有もさすがに驚かされた。
「いや、楽しみなものでございますよ。こうして関守をしていますお蔭で、いろいろのお方にお目にかかれますのでな。」
「なるほど……」
冉有は気のない返事をした。
「それでも、最初のうちは慣れないせいで、惜しいと思うお方を、ずいぶん取逃がしたものでございますよ。しかし、もうこの頃では、すっかりこつがわかりましてな、これはと睨んだお方なら、一人残らずお目にかかれているのでございます。