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ろんごものがたり
論語物語
下村 湖人
「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页
彼は車にゆられながら、眼をとじては、じっと考えに沈んだ。手綱を執っている子路は、もう小半時近くも默りこくっている。ほかの弟子たちもずいぶん疲れたらしく、三四町もおくれて、黄色い土埃の中を、とぼとぼと足を引きずっている。
「しばらく休むことにしたら、どうじゃ。」
孔子は、思い出したように車の中から顔をつき出して、一行の様子を眺めながら、子路に云った。
「はあ――」
子路は生返事をした。そして車は相変らず、かたりことりと軋りつづけた。
「みんなもだいぶ疲れているようではないか。」
と、孔子は軽く子路をたしなめるような口調で云った。
「もうすぐ渡場だと思います。」
子路は面倒臭そうな顔をして、ぶっきらぼうに答えた。孔子もそれっきり默ってしまった。
それから十五六分も経ったころ、子路は急に自分でぴたりと車をとめた。孔子は、渡場に着いたのかと思って、顔を出して見たが、そうではなかった。路が二つに岐れている。子路は手綱を握ったまま腕を組んで、じっと前方を見つめている。
「どうしたのじゃ。……休むのか。」
孔子は半身を車から乗り出して云った。
「渡場に行く路はどちらだか、考えているところです。