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ろんごものがたり

論語物語

下村 湖人

「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页

青空文庫

」

孔子は微笑した。そして武骨な子路の後姿を默って見ていた。しかし、子路はいつまで経っても、木像のように動かなかった。

「考えたら路がわかるかね。」

孔子はふとそんな皮肉を云った。このごろ、子路に対してだけは、おりおりこうした皮肉が、軽く彼の口を滑るのである。

子路の顔には、しかし、いつものとおりの反応が現われなかった。彼はやはり前方を睨んだまま、反抗するように答えた。

「わかります、わかると思います。」

孔子はもう微笑しなかった。彼は、子路が心に何か迷いを持っている時、いつも自分に無愛想になる癖を、よく知っていた。

(子路は、渡場に行く路のことだけを考えているのではない。)

孔子はそう思った。そして、子路が何を迷っているかも、ほぼ見当がついた。

(子路としては無理もない。彼は、淋しく旅をつづけるには、弟子たちの中でも一番不似合な男なのだ。)

しかし、孔子は口に出しては何とも云わなかった。彼は、憐むような眼をしばらく子路の横顔に注いでいたが、やがて眼を転じて、路の附近を見まわした。左手に墓らしい小高い丘があって、すぐその手前に、二人の農夫がせっせと土をいじっている。