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ろんごものがたり

論語物語

下村 湖人

「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页

青空文庫

わしは、その婦人に、ではなぜこんな恐ろしい山の中に住んでいるのかと訊ねて見た。すると、その婦人の答えが実に恐ろしい。「ここには苛酷な政治がございませんから。」というではないか。苛政は実に虎よりも恐ろしいのじゃ。わしはその時、ある大きな使命を天から下されたような気がしてならなかった。政治は書斎のものであってはならない。老子に驕気と笑われ、多欲と罵られようと、古聖の道を地に布くためには、どうしても政治の実権を握らなければならない。わしにはそう思われたのじゃ。しかし、そう思っても、前にいった通り、自分自身をすら十分に治めることの出来ない有様では、どうにもなるものではない。で、四十歳になるまでのわしは、迷わざる自己を建設することに全力をつくして来たのじゃ。」

「斉にお出になっても、直接政治にはご関係にならなかったのですか。」

「権臣の中に邪魔するものがあって、何一つ出来なかった。何分、斉の景公が気魄のない、意志の弱い人物で、どうにもならなかったのじゃ。」

「景公に対して、先生は何かお説きになりましたでしょうか。」

「3政治の事をたずねられたので、わしは、君臣父子各各その道を守るのが第一であるとお答えしたのじゃ。