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ろんごものがたり
論語物語
下村 湖人
「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页
そして、再び卓のところに戻って、着物の袖でしきりに眼をこすっていたが、それが終ると、すました顔をして室を出て行った。
廊下を伝って、みんなの集っている室の前まで行くと、彼はもう一度立止まって耳を澄ました。中ではもうかなり話がはずんでいる。孔子の声もはっきり聞きとれる。彼はまた、しきりに首をふった。が、とうとう思い切って戸をあけた。
話声がぴたりと止まって、みんなの視線が一せいに彼に注がれた。彼は、足の下から床が地の底に落ちて行くような気がして、膝ががくがくした。しかし、ともかくも孔子の前まで行って、つとめて平気を装いながら、お辞儀をした。
孔子はちょっと彼の方に視線を向けた。彼はその機を捉えて何か云おうとしたが、うまく口が滑らなくて、苦しそうに唾を呑んだ。
「そこで……」
と孔子はすぐみんなの方を向いて話し出した。
「1一緒に学ぶことの出来る人はあっても、一緒に道に精進することの出来る人は少いものじゃ。」
宰予は自分のことを云われているような気がして、棒立ちになったまま動かなかった。孔子の言葉はなだらかにつづいた。
「また、一緒に道に精進することの出来る人はあっても、いざという時に微動だもしない信念に立って、行動を共にしうる人は稀なものじゃ。